京の白味噌
桓武天皇の延暦13年(794年)に都が築かれて以来、千年にわたる王城の地となり、絢爛たる王朝文化が花開いた京都。その豪奢な王朝文化の産物として京都に発祥した白味噌は、当時は貴重品だった米の麹をたっぷりと使い、こっくりと甘口で薄塩の、いかにも王朝貴族好みの風雅な味わい。室町、桃山時代には茶道の隆盛とともに、普茶料理や懐石料理に欠かせない料理の材料として全国に普及し、一般にも賞味されるようになりました。貯蔵食料として発達した長期熟成の多塩味噌とは全く趣の異なった、平安貴族の鋭い味覚から生まれ、食文化とともに伝えられ、味噌汁のみならず様々な料理に使われる伝統の食品、それが京都の白味噌です。
京都のお正月のお雑煮は、もちろん白味噌。元旦には祝箸の箸紙に名前を書き入れたものと、お雑煮の初物を仏前に供え、ご先祖にあいさつをして祝箸をいただいてから、お雑煮を祝います。仏前に供えるため、お雑煮のだしには鰹節を使わず、食べるときに鰹節を振りかけるのも、古くから守られてきた風習です。そして白味噌は、長年の贔屓のお店のものを使うというお家がほとんど。年の初めの大切な祝膳には、これと決めた白味噌しか供さない。そんな京都人の思い入れもまた、白味噌の長い歴史につながっています。
米麹が多く塩分の少ない白味噌は、熟成期間が短いため、原料の良し悪しや米麹の出来不出来が、そのまま味に反映されます。また熟成期間が短いということは、保存期間も短いということなので、大量生産せずに、毎日、適量をつくり仕込むを繰り返さなければなりません。ごまかしのきかない、気の抜けない白味噌づくりですが、そうして得られる繊細ではんなりとした甘味と風味は、白味噌だけが持つ魅力。これからも伝え続けていきたい、京都に生まれ、京都に育った、素晴らしい食文化のひとつです。